2019/09/02 11:33
なぜ「占い師」の言うことは当たったように感じるのか? これが質問のテクニックだ
占い師に、こう指摘されたことはないだろうか。
「あなたはコツコツ地道に取り組む反面、ときには自由奔放にもなります」
「何かが大きく変わるイメージが浮かんできました。どこかへの旅? あるいは仕事上の大きな変化かもしれません」
そう言われて、「ああ、当たっている」と感じたことがある人もいるかもしれない。
いま日本では、携帯占いサイトの売上が200億円、占いなどのスピリチュアル市場の規模は1兆円と言われている。テレビや携帯サイトで占いを毎日チェックしている人は少なくないだろう。まったく信じていない人は別として、誰にでも、占いが的中した経験があるはず。
なぜ占い師は、あなたのすべてを見抜くのか――。
同時に正反対の指摘をする
リチャード・ワイズマン教授は『超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか』で、そのカラクリを科学的に解きあかしている。ワイズマン教授は、英国ハートフォードシャー大学の心理学の教授で、通常は科学が対象にしないものを、大規模な参加者数の実験をすることによって実証的に研究する「限界科学」の実践者だ。
本書は「超常現象」について、その20年にわたる研究成果をはじめて単行本としてまとめたものである。
本書によれば、占い師のカラクリ、それは相手の心を読む「コールドリーディング(事前に準備しない読心術)」というテクニックによるものなのだという。
いったい、具体的にどんなテクニックなのか。
かつて新宿・歌舞伎町で、占い師のアルバイトをしていた30代男性が明かす。
「相談者は1つのことが当たるだけでは納得しませんが、2つ言い当てられると、見抜かれていると感じ、こちらの言うことを信じやすくなる傾向がありました」
元占い師は、その技法を数日間の占い研修で学んだという。
「まずは、誰でも当てはまることを言ってみる。最初は、『あなたは一見社交的で明るいですが、本当は寂しがり屋ではありませんか』などと同時に正反対の指摘をするのです」
誰にでも該当する問いかけ、二言目は?
実は、これは「バーナム効果」というアメリカの心理学者バートラム・フォア氏が発見した心理学の法則を応用したもの。フォア氏は、学生たち全員にまったく同じ性格特徴を記した紙を渡したところ、ほぼ全員が自分の性格にぴたりと一致すると答えたのだった。例えば、『あなたは快活ですが、陰気なときもある』という指摘は誰にでも該当するものだが、不思議なほど自分の心の奥深くを見抜かれたと思い込んでしまうのだ。
元占い師が続ける。
「二言目には『仲がよかったのに、最近連絡がつかなくなった友達はいませんか』と問いかけます。誰にでも1人は思い当たる人がいますから。そうすると、相談者は占いという物語に入りやすくなるのです」
相手を見抜いていると思わせてから、本格的な占いに入っていく。占い師は、あいまいな表現で、相談者のパーソナリティを読み込んでいくのだ。
「相談者の格好をみて、年齢や職業を予測していく。若い子なら、恋愛か友達で悩んでいることがほとんどです。『あなたは人間関係で悩みがあるようですね』と問いかけて、話を絞り込んで行きます」(同前)
ワイズマン教授によれば、人間の脳は、相手の言葉の一部があいまいでわかりにくくても、会話の前後から、意味をくみとってしまう性質があり、時として意味のないものにまで意味を見出してしまうという。
例えば、占い師はこんな具合に語りかける。
「何かが大きく変わりそうです」
「1つの輪が閉じるのが見えます――なにか心当たりはありませんか」
これらの言葉は、あいまいで、何通りもの解釈が可能だ。しかし、人間は自分の人生を振り返り、言われた言葉に当てはまるできごとを探し出そうとする。そして、占い師の言葉が自分に当てはまると思い込むようになるのだ。
意味ありげに「難しいわね」
例えば、30代女性が結婚について占ってもらう場合――ある占いライターが話す。
「多くの占い師は、『結婚相手はいるの、いないの? 好きな人はいるの?』と聞いて来るでしょう。好きな人がいると答えた場合、相手の生年月日と名前を言わされる。そして、好きな男性が40歳くらいなら、占い師は意味ありげに『この人は難しいわね』と言うのです」
この「難しい」という言葉をどう受け取るのか。
「相談者の好きな男性が既婚者なら、この時点で『すごい! 当たっている』という思考回路に入ってしまうから、ついつい聞かれてもいない男性に関するデータまで話してしまう。
そうなったら、占い師は勝ったも同然。不倫している女の悩みなんてどれも似たり寄ったりで、占い師もアドバイスは豊富に用意しています」(同前)
スピリチュアルブームで急増した「霊視」という手法はその人の前世の姿から、占っていくというものだ。有楽町駅近くのビルの一角で、小誌の女性記者(20代)が占ってもらった。
「前世はいろいろありますが、年代的にご自分に一番近い方が守護霊になります。その方を見てみます」
霊能師はそう言うと、目をつぶり、手をこすりながら、眉間にシワをよせ、何かを唱えはじめた。1分ほど経つと、前世のイメージを語りだしたのである。
当たり外れがはっきりすることは話さない
「前世は、北海道とか北の方で原始的な生活をしていた勇敢な男ですが、家族を残して旅に出る。食料を求めてどんどん南のほうへ移動しているようです。いつも心が知らない土地に向かっていて、魂はもっと変えられるんじゃないかと思っている。そして、結局、結果を出す。かなり頑固で決めたら、テコでも動かない」
北海道出身だと伝えていないのに、北海道と指摘されたのでドキリ。また「旅に出る」というのは、家庭が転勤族だったことを見破られたと一瞬思った。
そして、この霊能師はこんな結論を導き出した。
「暖かいところへ向かうというのは、何かの暗示のような気がします。あるときから、実生活でも環境を変えるかもしれません。家庭に入るとか」
霊能師が語る「旅」とか、「結果」とか、「暖かいところ」とか、どこか意味があり気だが、何を意味しているかはハッキリしない。どうとでも意味がとれる言葉だ。
「あるとき」という言葉も気になるが、この霊能師に尋ねても、「実生活でも環境を変える」時期を明言しなかった。占い師の多くは、当たり外れがはっきりしてしまうことは話さないという。
前出の占いライターは話す。
人間の脳にある「嘘をつく」システム
「結婚時期を見てほしいという相談の場合、占い師が使う常套句(じょうとうく)は『あなたが願えば、結婚できます』というもの。時期を明言してくれたときもありました。当たったためしがありませんが(苦笑)」
だが「よく当たる」という評判をとる占い師がいるのも事実だ。
ワイズマン教授は『超常現象の科学』で、その理由として人間の脳に「嘘をつく」システムがあるからだと説明する。
例えば、先に紹介した意味のないものに意味を見出してしまうというのもそのひとつ。似たような性質として、まったく無関係な2つのもののあいだに関連性を見いだそうとする性質がそなわっていることも知られている。この能力は、自然科学の進歩にも貢献した人間固有の能力でもある。
ところが、時としてこれらの能力が暴走し、ありもしないものを見てしまうこともある。夢とその後に起こった出来事に関連性を見出してしまい、自分には予知能力があると思い込んでしまう。あるいは、ごく普通の写真に亡霊の姿を見出してしまうのもこの能力のせいだ。
ワイズマン教授の研究を当てはめると、よく当たる占い師というのは、相談者の周りに起こった出来事を巧みに聞き出し、それに意味を与え、まったく無関係な出来事の関連性を上手に物語って、相談者を納得させるのがうまい人だと言える。
「占いはエンターテイメントの1つです」
と公言する占い師のまついなつき氏もこう認める。
「タロットカードを使って、相談者が主人公の物語を即興でつくっているようなものです」
30代から50代の女性が占いにハマる理由
東京・中野ブロードウェイにある、まつい氏が店長を務める「中野トナカイ」では、30代から50代の女性の相談者が多いという。
「結婚適齢期など、親や世間の価値観で『こうしなくてはいけない』と思いこんで困っている人が多い。タロット占いを通せば、1つの視点だけではなくて、いろいろな視点で考えられるようになる」(同前)
カラクリはわかっていても、ハマってしまうのはそんな効用もあるからかもしれない。
「気持ちをスッキリさせるという意味で、占いは女の風俗」
と前出の占いライターも評する。
――『超常現象の科学』は、占いの他にも、幽霊体験やスプーン曲げ、予知能力といった超常現象のウラにも、実は、人間の脳が持っている「嘘をつく」働きが深く関係していることを検証している。
評論家の宮崎哲弥氏は、本書の魅力をこう語る。
「最近の心理学では、人間は生まれつき超自然的な現象に魅せられる心性を持っているとされています。このこころの仕組みは、社会的な絆の形成を促す機能を担っていますが、その反面、迷信、占い、まじない、スピリチュアリズム、カルトなどを蔓延(はびこ)らせる要因にもなりえます。
本書を一読することで、そうした危険な傾斜に陥ることを回避できます。これは言わば、こころの予防注射なのです」
本書には、巻末に「これであなたも超能力者」という特別付録もついている。見ず知らずの相手の性格を見抜く「読心術」、「念力を身につける」方法、「幽霊を呼び出す儀式」などが紹介されているのだ。
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