──その日は、
なんとなくのクリックから始まった。

F氏、32歳・独身・実家暮らし。

給料日からちょうど５日後、

財布の中身は残り8,000円。

「今月はもうやめとこう…」

そうつぶやきながらも、

指は勝手に

“新人情報”

をタップしていた。

そこに現れたのは──

《入店２日目
・黒髪ロング・笑顔がまぶしい癒し系》


（……見つけてしまった）


気づけば、F氏の親指は

「予約確定」

を押していた。

迷いはいつもワンクリックで消える。

ホテルで待つと、彼女は来た。

ぎこちない笑顔、少し震える声。

「Fさん、はじめまして……」

その瞬間、

F氏の心のどこかが“ふっ”と緩んだ。

「大丈夫だよ、緊張しないで」

そう言いながら、
自分でも驚くほど優しい声が出た。

彼女は少し安心したように笑い、

「Fさん、話しやすいですね」

とつぶやいた。

──その一言が、心に刺さる。

もう、完全に

“オキニ認定”。

プレイより、会話の時間が長かった。

趣味の話、
好きな映画、
仕事の愚痴。

「次、また来てくれますか？」

その言葉に、F氏は即答した。
「もちろん」


帰り道、コ錦糸町の街灯りが
やけに優しい。

財布は軽くなったが、
心は満たされていた。

「俺……恋してんのかな」

夜風の中、
そんなつぶやきがこぼれる。

恋ではない。けれど、

確かに“誰かに必要とされる実感”。

──F氏、新たな推し

（＝生きる理由）

を手に入れた瞬間だった。

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