──F氏、32歳。
独身・彼女いない歴32年。

恋愛とは縁遠く、

「恋って、課金なしで成立するの？」
が口癖の男である。

そんなF氏が、
“恋”を感じてしまったのは──

あの新人〇〇ちゃんとの３回目の夜だった。

最初はただのオキニ。
けれど、その日は少し違った。


ドアを開けた瞬間、彼女が言った。

「Fさん、今日来てくれる気がしてたんです」

──その一言で、心臓が跳ねた。

普段なら照れて笑い飛ばすところが、

このときばかりは、
返す言葉が見つからなかった。

話しているときも、
触れているときも、

どこか“仕事”の空気が薄い。

彼女の笑顔が、やけに自然で。

「Fさんって、なんか落ち着くんですよね」
「また、会える？」

「うん、もちろん」

帰りの総武線で
、F氏は天井を見つめた。

胸が少し苦しい。

（やばい……これ、恋の症状だ）

家に帰ると、母が言う。

「なんか楽しそうね。
いいことあった？」

「……ちょっとね」

風呂上がり、
スマホに映る彼女のお礼日記。

“次回出勤予定：土曜日”の文字。

F氏、即座にカレンダーに◎をつけた。


そしてつぶやく。

「今度は、ちゃんと気持ち、伝えようかな」

──風俗じゃなく

、“恋愛”

をしてみたいと思った夜。

F氏、32歳。

人生初の“本気”が、
今、始まろうとしていた。
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