その夜、
F氏はなぜか真面目な話をしたくなった。

〇〇さんと会うのは、
これで６回目。

もう“お客様”というより、
“心の栄養士”
みたいな存在だ。

部屋の照明はやわらかく、
〇〇さんは相変わらず笑顔で言った。

「Fさん、
今日ちょっと疲れてるね？」
「……わかる？」

「わかるよ、顔に出てるもん」

──なぜだろう。

会社でも家でも、
誰もそんなふうに気づいてくれないのに。

気づけば、
F氏はつぶやいていた。

「なんかさ、
頑張っても報われない気がしてさ。
俺、このままでいいのかなって」

〇〇さんは少し黙って、
タオルを畳みながら言った。

「“いい”かどうかは、
Fさんが決めていいんだよ。
でも、頑張ってる人が
報われないことなんてないと思う」

──心に、ズンと響いた。

風俗嬢としての言葉じゃなかった。
一人の人として、
まっすぐに届いた。

「……ありがとう。
なんか、救われた気がする」

「ううん。Fさん、ほんとに優しいもん。
きっと、いいことあるよ」

その夜、
帰りの電車の窓に映る自分の顔が、
少しだけ柔らかく見えた。

“癒し”のつもりで通っていた場所で、
いつの間にか
“生き方”
を学んでいたF氏。

──そう、彼はまだ恋してる。

でもそれ以上に、

“人に優しくなれる自分”

を見つけたのだ。

次回、

「F氏、人生初の転職を決意する編」。

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