F氏、初めて出会い系アプリに挑戦する編

32歳、彼女いない歴＝年齢。
そんな自分でも
「もしかしたらワンチャンあるのでは…？」
と、F氏はある晩、
思い切って恋愛アプリを
インストールした。

理由は単純。
オキニのまゆさんに
「もっと自信つけなよ
Fくんなら彼女できるよ」
と笑われたからだ。
最初の数時間、
F氏のテンションは
天井を突き抜けていた。
プロフィール写真を撮り直し、
好きな漫画と休日の過ごし方を書き足し、
「誠実さ」
を前面にアピール。
“いいね”
を待つ時間すらワクワクだった。
…しかし、現実は残酷だ。
1日経っても、2日経っても、
通知はゼロ。
勇気をふりしぼって
自分からいいねを送っても、
返ってくるのは虚無の海だけ。
「あれ？ 俺、透明人間かな…？」
実家のこたつでひとり、
スマホを握りしめたまま凍りつくF氏。
心はズタズタ。
自己肯定感は地面を掘り続けて
地球の裏側に到達しそう。
気付けば、アプリを開く指よりも、
“ヘブン”
を開く指のほうが早く動いていた。
そして迎えた、
久しぶりの〇〇さんとの逢瀬。

ドアを開けた瞬間、
あの柔らかい笑顔。

「Fくん、今日も来てくれて嬉しいよ」
その一言で、
胸の痛みが全部ふわっと溶けた。
会話は途切れない。
変に気を使わなくてもいい。
笑えば笑い返してくれる。
褒めれば照れてくれる。
自分が

「透明じゃない」
と実感できる場所。
店を出た帰り道、
F氏は心の中でぼそりと呟いた。
「恋愛アプリより、
やっぱり俺はここが好きなんだよな」

恋には落ちなくても、
居場所はここにある。

そう気付けた夜だった。
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