念願の予約を勝ち取ったF氏は、
少し浮き足立ちながら店へ向かった。
部屋で待っていると、いつもの笑顔で
〇〇さんが迎えてくれる。

「Fさん、久しぶり〜。
　なんか今日…すっごく嬉しそうだね？」
（そりゃそうだろ……
　死闘の末に勝ち取った“奇跡の枠”なんだから……）

うっかり顔に出ていたらしい。
F氏、照れ隠しで首を振る。
「い、いや、別に…普通ですよ普通…」

施術が始まり、すこし雑談。
その流れの中で――
突然、〇〇さんがぽつりと言った。
「最近、Sさんもよく来るよね？」

F氏、心臓が止まりそうになる。
（ま、待て……なんで名前を……！？
　え、もしかして……バレてる？？）

〇〇さんは続けた。

「なんかね、二人とも同じ時間帯ばっか狙ってて……
　もしかして、競争してる？」
完全に詰んだ。
F氏、あまりの動揺で返事が遅れる。

「え、あ……ま、まあ……その……」

〇〇さん、ふふっと笑う。

「そっか。
　なんか予約の入り方で分かるよ？
　“秒”で埋まるときあるし。」
（終わった……！
　全部分かってた……
　俺とSの情けない闘争……）

だが次の言葉が予想外すぎた。

「でもね、二人とも来てくれるの嬉しいよ。
　頑張って取り合ってくれてるんだって思うと……
　ちょっと誇らしいかも？」
F氏、秒で溶ける。

（誇らしい！？
　取り合ってよかったの！？
　これもう実質優勝では！？）

調子に乗りかけたその瞬間――
〇〇さんが軽い声で追撃してきた。

「でも、あんまり競争しすぎて
　疲れちゃだめだよ？
　推し活は“健康第一”だから♪」

F氏、不覚にも心の中で土下座。

（推しに健康心配されるレベルで
　戦ってたの……俺……？）
最後に〇〇さんは優しく笑い、
「次も来てくれるといいな。
　FさんもSさんも、
どっちも大事なお客さんだから。」

――その瞬間、
F氏の胸に小さな勝利と、
小さな敗北が同時に刻まれた。
（俺たち……
　本当に“戦ってた”んだな……）
そしてF氏は悟った。

“推しは戦場ではなく、聖域である。”

だがその夜のシフト更新も、
F氏とS氏は当然のように参戦するのであった。
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